そうしてしばらく下っていくと、右岸の倒木にIW田さんが一人でしがみついているのが見えた。しかし、カヤックが見えない。
どうやら舟を流してしまったようだ。
川下り中に一番困るのがこれである。
「沈しても、舟とパドルだけは離さないこと」
そうとは分かっていても、セオリー通りにできないのが川下りである。
もしもの時にIW田さんを乗せられるように、その近くでカヌーを止める。
幸い、IW田さんがいるのと同じ右岸側で流されたカヤックが確保されたので、IW田さんは岸沿いに歩いて再び自分のカヤックに乗ることができた。
その後も厳しい瀬が続き、またIW田さんが沈しているのが見えた。
「あらあら」と思って見ていると、今度は目の前で228君が横向きになって岩に張り付いてしまった。
それをかわして何処かのエディに入ろうと思ったが、そんな場所はどこにも無く、我が家が先頭に出てしまった。
こうなると人の事より自分の安全の方が第一である。
瀬をもう一つ越えてから、石がゴロゴロと水中から顔を出している様な岸に、半ば座礁する様にカヌーを突っ込んで、ようやく上陸することができた。
その先には、また嫌らしそうな瀬が見えていた。
去年そこで、我が家の舟と岩の間にIW田さんを挟んでしまいそうになったことを思い出した。
去年下った時は、そこと倒木の絡んだ場所の2か所だけが唯一の難所だったはずである。
それが今日はここまで下ってくる間に沈が続出。
レスキューを終えた他のメンバーも、ようやく我が家のいるところまで追い付いて来た。
「今日は大変な川下りになりそうだ」
ここに来て、それが全員の共通認識となっていた。
昨日は鵡川の強烈な瀬を下り終えて「生きてて良かった〜」と実感したものだが、今日は川下りの途中で「生きて帰れるだろうか」との不安が心の中に湧いてくるのであった。
まずはレスキュー要員としてI山さんが先に下っていく。
ここでは瀬の最後で本流が岩壁にまともにぶつかり右へ流れを変えるのだ。
そこまで行く前に隠れ岩にでもぶつかったのか、大きくバランスを崩す。
思わず皆から「おーっ」と悲鳴にも似た喚声が上がったが、何とか無事に瀬を越えれたようである。
去年は無かったはずだが、中州を挟んで右岸側にも分流ができていた。
そちらの方がチキンルートだけれど、今回だけはチキンルートを選ぶしか無さそうだ。
次に下ったN島さんもそちらに入ろうとしたが、本流の流れが強すぎてそのままI山さんと同じルートを下っていき、瀬をクリア。
それを見ていて、チキンルートの選択は事実上不可能であることを皆が知ることとなった。
何人目かに下ったO橋会長。I山さんと同じ隠れ岩につかまって沈脱するのが見えた。
そして中州の陰に入って一旦見えなくなり、再び姿を現した時、有ろう事かカヤックを放してしまっていたのだ。
これも幸い、カヤックは直ぐ下流で確保できたようだ。
次に下ったMオさんは瀬をクリアした先で沈。しかもロールで起きることができずに沈脱。
私達のいる場所からは遠すぎて状況が今一分からないが、瀬を過ぎた後も油断できないようだ。
などと思いながら見守っていると、何とMオさんもカヤックを放してしまった。
そしてMオさんはレスキューされたけれど、カヤックはどんどん流されていって、とうとう見えなくなってしまった。
これは一大事である。
IW田さんも先に下って行って、上流に残っているのは私達とI田さんのカナディアン2艇だけ。
瀬の下がどうなっているのか想像もつかない。
多分、私達のレスキュー要員として何人かはまだそこに残ってくれていると思われるが、他のメンバーはmarioさんの流されたカヤックを追いかけて行ったはずだ。
そうなると、その手薄なレスキュー体勢の中で絶対に沈はできない。
タンデムで沈をすると、一度に二人が流されることになるのである。
荒い瀬の中を隠れ岩にだけ注意しながら下っていく。
最後の本流が岩壁にぶつかっているところは、見かけは恐ろしいけれど、波が跳ね返ってくるので岩に張り付いてしまうことは無い。
それが分かっていたので、岩にぶつかりそうになっても慌てないでそこをクリアした。
問題はその後、直ぐに本流から抜け出さないと次の落ち込みに入ってしまう。
必死のパドリングでようやく岸までたどり着けた。
想像していた通り、そこに残っていたのはN島さんと228君のOC-1組だけ。
I田さんが下ってくるのを待って、先を急ぐことにする。
やがて、右岸に皆が集まっているのが見えた。
しかし、Mオさんのカヤックはまだ見つかっていないらしい。
そこは二つ目の難所のすぐ手前だった。
去年は全員がここをポーテージしたけれど、今回は水が増えているので下れそうなルートもできている。
でも、さすがにここで無理をする人は誰もいなくて、素直に右岸をポーテージした。
I山さんは一人でカヤックを追いかけてきたけれど、この瀬があったために追いかけるのを諦めたそうである。
さぞ大変だったことだろうと思ったら、いつの間にかI山さんの手にはしっかりとアイヌネギの束が握られていた。
どんな時にでもやるべき事は忘れないI山さんなのである。
ここからは全員でMオさんの流されたカヤックを探すことになる。
T山さんの乗っているOC-1は、昔は奥さんとタンデムで乗っていた舟なので、それを元の二人乗り仕様に戻してMオさんを乗せることにする。
T山さんがいなければ、我が家のカナディアンの真ん中にMオさんを乗せることになっていたはずだ。
何年か前のシーソラプチ川で、途中で怪我をした体重100キロの228君を乗せて下ったこともあるので、体重の軽いMオさんなら全く問題ない。
最近のクラブの例会ではOC-2での参加は私達だけということが多くなっているが、こんな事態に遭遇するとツアーにおけるカナディアンの価値が見直されそうである。
そんな意味では、私達のクラブでは色々なタイプの舟が混ざり合っていて、良いバランスを保っているのかもしれない。 |