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長流川

(大滝中学校前〜徳舜瞥川合流)

長流川国道453号線の北湯沢温泉付近を走っていると、黄色っぱい岩盤の川底が広がる特徴的な川が目に入る。
それが長流川である。
クラブのメンバーは、何度かここを下っているけれど、我が家はなかなか機会に恵まれず、今回が初チャレンジとなる。

集まったメンバーは10名。
大滝中学校近くの橋からスタートする。
車の回送中に見た川の様子は、かなり減水気味で、下るのに苦労しそうだった。
水は少ないけれど、天気は最高である。
7月の週末はパッとしない天気が続いていたので、久しぶりに青空の下で気持ち良く遊ぶことができる。

スタート地点周囲を山に囲まれている川の割には、その水は期待していたほど澄んではいなかった。
上流にあるのは旧白滝村の集落だけ。
下水道整備は進んでいるのだろうが、未だに生活排水が流れ込んでいる様な川の汚れ方である。
でもそう感じるのは、期待が大き過ぎた事による反動かもしれない。
普通の目で見れば、十分に清流と言えるレベルの川である。

スタートして暫くは、比較的穏やかな流れが続いていた。
浅瀬ではカヌーの底を擦るものの、ストレスなく下ることができる。
ただ、倒木が頻繁に現れる。
流れが穏やかなので、川をほぼ塞いでいるような倒木も、その横ギリギリを余裕を持って通り過ぎることができる。
それでも、今回下った区間では倒木を避けるために3箇所のポーテージが必要となった。
一般的な川下りフィールドではないので、倒木への注意は怠れない。


長流川の流木   長流川を下る
こんな流木が方々に   最初は快適に下っていた

川原で休憩12時前だけれど、休憩にはちょうど良い川原があったので、そこで昼食にする。
最近は気温の高い日が続いていて、今日も多分最高気温は30度まで上がるはずだ。
半袖で下りたいところだったが、岩の多い川なので怪我をしないように長袖のウェアに身を包んでいた。
それでも川面を吹く風は涼しく、カンカン照りの川原に座っていても、暑さは感じない。
今日は徳舜瞥山がくっきりと見えていたが、こんな日は山に登るより川で遊ぶ方が絶対に快適である。

次第に岩の多い流れに変わってきた。
水が少ないので、下れるルートは限られている。
特に、私達の様な大型カナディアンだと、余計にルート選択は難しくなる。

岩の間の狭い落ち込み 前を下っているOC-1が通れても、私達のカヌーは岩と岩の間に挟まってしまうことも度々。
流れの先の先まで見ていないと、途中で行き場を失ってしまうことになるのだ。
皆の迷惑にならないように、岩の多い流れでは後ろの方から下っていく。

次第に、この川の特徴でもある流紋岩の滑床が現れるようになってきた。
黄色っぽい色なので、直ぐにそれだと分かる。
その滑床が落ち込みを作っていたり、他の岩と絡んで迷路のような流れになっていたりと、コース取りが難しくなる。
それでも滑床だけあって、底がつかえても滑り台を滑るように通過できる場所もある。

テクニカルな流れが続くそんな流れの中で一生懸命パドリングに集中している時、左手の指に鋭い痛みを感じた。
蜂に刺されたのかと思ったが、血が出ていたのでアブにやられたみたいだ。
指の無いパドリンググローブを付けていたのに、その僅かな露出部分を狙われたのである。

ところが、後になってから同じ左手の甲が大きく腫れあがり、アブと同時に蜂にも刺されていたらしい。
この後も時々、スズメバチに周りを飛び回られた。
必死になって岩を避けながら、その最中にスズメバチからも逃げなければならないので大変である。


滑床の瀬
滑床の瀬を下るのは気持ち良い

落ち込み   落ち込み
こんな落ち込みが次々に現れる   岩の絡む落ち込みが多い

前方に滑床の亀裂の中を水が流れている場所が見えてきた。カヤックのメンバーは既にそこを下り終えて、下流の方で待っている。
亀裂の幅はかなり狭そうで、そこに真横から侵入する形になる。

先に下ったメンバーからはストップの指示は出ていない。
滑床の亀裂でもそれは、安全に下れるという事を意味しているわけではない事を、私は過去の経験から十分に学んでいた。
「こんな場所、本当にカナディアンで下れるの?」
皆そう思って、ただ眺めているだけなのである。

でも、カヌーから降りて下見をするのも面倒なので、そのまま突っ込んでいく。
下れるだけの幅が無ければ、カヌーが座礁するだけの話である。
狭い亀裂の中でカヌーが大きく傾くが、パドルを入れるスペースもなく、バランスを保つだけで精一杯。
水が一気にカヌーの中に入ってくる。
それでも何とかそこを抜け出して後ろをチラリと振り向くと、後続のOC-1やカヤックが次々とひっくり返っているのが見えた。

この亀裂ではOC-1のタケさんが、岩にぶつかった時に手をぶつけて、指の関節部分を擦り剥いてしまった。
私のカヌーに積んである救急セットの絆創膏で応急措置できる程度の怪我で済んだが、最近はこの救急セットが何度も役に立っている。
あまり良い傾向ではないけれど、それは水の少ない川ばかり下っていると言うことでもある。
水が少なければ重大なアクシデントが起こる確率は減っても、こんな擦り傷を負う可能性は大幅に増えてしまうのである。


危機一髪   タケさん
私がパドルを離しているのがばれてしまった   ここで手を擦り剥いたタケさん

ホテル名水亭と白絹の床北湯沢温泉のホテル名水亭が見えてきた。
そのホテルへと繋がる名水橋を過ぎると、黄色くて真っ平らな滑床が川幅一杯に広がっていた。
滑床の上を流れる水の水深はせいぜい5センチ程度なので、その滑床の中にできた細い水路部分しか下ることができない。
水路の深みは暗緑色に染まっているので、それが目印となる。
平らな滑床の部分は、そこを流れる水の小さな波が太陽の光でキラキラと白く輝く。
これが長流川の「白絹の床」である。
本当に美しい光景だった。

その美しい光景が次第に変わり始める。
真っ平らだった滑床が次第に波打ち始め、それに伴って白いさざ波が荒々しいホワイトウォーターへと変化していくのである。
それでも、滑床部分は、水深が浅くてパドルでガツンガツンと川底を叩いてしまう以外は楽しく下れていた。


長流川白絹の床
長流川白絹の床、この辺りが一番美しい

岩だらけの流れそして、その美しい滑床の流れが終わると、突然、真っ黒くて巨大な岩がゴロゴロと転がる荒々しい風景に激変した。
落ち込み、岩避け、方向転換。
必死になってカヌーを操作する。
岩が邪魔して先の様子が見えない。
かみさんが身を乗り出して先の様子を確認し、ルートを決める。
私はかみさんのパドリングを見ながら、その意図に合わせてカヌーを操作する。
岩が多くてどうしようもない時は、その岩を手で掴んでカヌーの向きを変える。
時々座礁しては、岩を足で蹴って脱出する。
ようやく皆が待っている瀞場まで辿り着いた時は、本当にホッとした。

川岸のパイプから白い蒸気が勢いよく噴き出していた。
それでここが北湯沢の温泉郷であることを思い出す。


岩だらけの落ち込み   温泉の蒸気
ここの何処を下ったのだろうと思えてしまう   温泉の蒸気が暖かい

この先の川原には、御宿かわせみの混浴露天風呂があるはずである。
もしもそこで妖艶な女性が湯浴みをしていたら、何処に目をやれば良いんだろう。
下るルートが見えない!そんなことを考えながら下っていったが、そんな余裕は全くなかった。
大きな岩を回り込んだ先に突然現れた落ち込み。
カヌーの向きを変えるために、かみさんに向かって「ドローッ」と叫んだが、かみさんはその瞬間、全く逆方向にパドルを入れてしまった。
「あっ、なんで!」と言った時には、カヌーは既に落ち込みの岩に張り付いてしまっていた。

そこは何とか抜け出せたけれど、かみさんが言うには「絶対に無理だと思ったから自分から座礁した」とのこと。
確かに、その落ち込みの様子を見れば、カナディアンで下れるルートはなさそうだった。
無理をすれば、もっと危ない張り付き方をしていたかも知れず、結果的にかみさんの判断は正しかったようである。

そんな流れが続くと、川の上がいくら涼しいとは言っても、汗が噴き出てくる。
再び延々と岩避けが続く。
私もかなり疲れてきて、真剣に岩を避ける気力もなくなってきていた。
少しくらい岩にぶつかってもどうでも良いやって気分である。
岩だらけの流れカヤックのメンバーは途中の小さなエディで休んでいたが、大きなカナディアンで入れる場所は無く、私達はそこを通り過ぎるしかない。
そのまま下っていくと、私達の苦労を知ってか知らずか、K岡さんが手を振って見送ってくれる。
とうとう、私達が先頭に出てしまった。

ようやく大きなエディを見つけて、止まることができた。
と言うより、その先にかなりヤバそうな場所が見えたので、止まらざるを得なかったのである。
多分、他のメンバーは下見もせずにそこを下ると思われるので、皆が下ってくる前にちょっとだけそこの様子を確認しに行く。
流れが岩壁にぶつかりながら右へと落ちている。その手前に大きな岩があるので、その落ち込みの先がどうなっているのかが分からないのだ。
少し離れた所から見た限りでは特に問題も無さそうなので、カヌーに戻る。

その間に他のメンバーは躊躇いもなくそこを下っていく。
私達も続いて下ろうとして先の様子をうかがうと、その落ち込みにカヌーが引っ掛かっているのが見えた。
この先にブラインドカーブがN島さんのOC-1である。
張り付いてしまったのか、そこから抜け出るのにかなり時間がかかっていた。

その後から下っていく人に、K岡さんが大きな岩の手前から右に入るルートを指し示していた。
I山さんやO橋さんのカヤックもそのルートを下ったのを確認してから、一番最後に私達が下っていく。
しかし、近くまで下っていくとそこの幅はかなり狭くなっていた。
それでもK岡さんは、岩の上に立ったままそのルートを指差している。
不安はあったけれど、こうなればK岡さんを信じるしかない。
岩の手前から指示されたとおりに右に入ると、直ぐに流れは左に変わり、その先に幅の狭い落ち込み。
左漕ぎのかみさんが何度もドローを入れてカヌーの向きを変え、かろうじてそこを下ることができた。
後でK岡さんが「ヒデさん家に下れない場所は無いですね」と言っていたけれど、本当にそのルートをカナディアンで下れると思って指示してくれていたのかは、甚だ疑問である。


指示されるところへ   下った場所
K岡さんの指示を信じるしかない   良くここに入れたものだと思う

ゴール到着そこから少し下ったところに、川岸の岩の中から熱湯が自噴している場所があった。
さすがに温泉地帯を流れる川である。

その後も、ゴール直前までしつこく浅瀬と岩場が現れる。
タケさんが、「これだけゴールするのが待ち遠しかった川下りも久しぶりです」と言っていたが、全く同感だった。
これまでカナディアンで下って大変だなと感じたのは鵡川の赤岩青厳峡と白老川くらいだったが、今回の長流川は、それらを上回って、私の中ではカナディアンでうっかり下れない川No.1となったのである。

長流川の動画 

2014年8月2日 晴れ
当日12:00長流川水位(優徳観測所) 308.62m


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