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トナシベツ川

(羽衣橋〜核心部手前)

暖かな紀伊半島で北山川、古座川と穏やかな川を下り、北海道へ戻ってきて今年初めて下る川がトナシベツ川。
雪解け水で増水するこの時期は、過去にも色々と事件が起こった川でもある。

スタート地点にはまだ雪が!一週間後には屋久島へ出かける予定なのに、そんな川を下ってもしものことがあったらどうするんだろう。
そんな不安を抱えながらも、GWの真っ最中に企画された無謀と言っても良いようなミニ例会に参加することに決めたのである。

天気もパッとせず、川の水量も今まで下った中では一番多そうな様子。
そんな状況にも関わらず、集まったメンバーはACCからのゲスト参加3名を含めて17名くらい。
物好きな人たちとしか言いようがない。

スタート地点の羽衣橋から先の林道は、まだ雪で埋もれたままだった。
北海道のカヌーイストは、こんな時期から川を下るのだと、軽いショックを受けた。

急な崖からカヌーを下ろすまずは大きなカナディアンを川原まで下ろさなければならない。
しかし、そこは急な崖である。
ロープを延ばし、皆に助けてもらいながら、何とか川原へ下ろすことができた。
川を下る前から命がけである。

トナシベツ川は霧に包まれ異様な雰囲気が漂っていた。
その様子に支湧別川の出来事が思い出された。
事件は霧の中で起こるものである。

かみさんが水の中を指差す。
何があるのかと目を向けると、水の中でフキノトウが揺れていた。
植物の生育環境を越えた増水と言うことである。
何だかそれがとても不吉な光景に見えた。


霧の立ちこめるスタート地点
不気味な雰囲気のスタート地点

霧の中を下り始めるまあ、何とかなるだろう。
増水して川幅が広がっているので、ひたすらチキンルートを下ればいいのだ。
過去の増水時もそうやって生き延びてきたのである。

最初のカーブの瀬は何とかチキンへ逃げられた。
その後は流れの真ん中に波の高い部分があるので、そこさえ避ければ問題はない。
それなのに何故かカヌーは真ん中へと寄っていく。

困ったな〜、まあしょうがないか。

軽く考えていた。
そしてその波にまともに突入。
カヌーは簡単にひっくり返った。

流されるかみさんあれ?なんで?

雪解け水で増水した濁った水。
そんな中を流されるのは、暖かな紀伊半島から帰って来たばかりの身にはちょっと辛い。
目の前に迫ってきた大岩は何とか避けられた。

かみさんはカヌーから離れて独りで流されていく。
私はカヌーを起こそうとするが、なかなか上手くいかない。
そのうちに川底にしりをぶつけた。
と言うことは、その辺が浅いということだ。

川底に足が着いて、そこで立ち上がることができた。
かみさんはそのまま私の横を流されていった。

ストライクのロープスローしばらくして、かみさんも座礁するように川の真ん中で止まった。
周りに他のメンバーが沢山いるので、かみさんは何とか助けてもらいそうだ。

さて、自分はどうしようとと考えていると、岸に積みあがった流木の山からパムさんが姿を現した。
いつも頼りになる存在である。

カヌーを先に回収してもらい、その次が私の番だ。
パムさんが、一度投げたレスキューロープを束ね直して、投げる準備をする。
その状態のロープを投げるのは結構難しい。

しかし、私とパムさんの間は10mも離れていない。
それは、絶対に外す訳にはいかない距離でもある。
二人の間に妙な緊張感が走る。


レスキューに現れたパムさん
地獄で仏、激流でパムさん

ここからのエスケープは無理そうして、私もかみさんも無事にレスキューされて、再び一緒になる。
しかし、かみさんの様子が少し変だった。
流されている時にお尻を川底にぶつけて痛めたらしい。

指が折れてても平気で下っていた過去のあるかみさんが辛そうにしているので、状態はかなり悪そうだった。
この時点で、2ヶ月以上前に予約した屋久島行きの航空券をキャンセルするしかないと考えていた。

ここでリタイアしようと、川岸の崖を這い上がってエスケープするルートを探してみたが、道路まではかなり距離がありそうだ。
諦めて下り続けることにした。

しかし、そこからの流れは更に激しさを増す。
下り始めた時は何となく心が弱くなっていたが、ここで私もかみさんもスイッチを入れ直した。

沈はできない もう一度沈することは絶対に避けなければならない。
沈した時よりも更に大きな波を次々と乗り越えていく。

Y谷さんが沈して流され始めるのがチラリと見えた。
川原に上陸できそうな場所があったので、そこに向かって必死にカヌーを寄せる。
かろうじて上陸でき、ホッとして下流を見ると、そこはトナシベツ川の核心部だった。
以前にmarioさんがカヤックを流した所である。

Y谷さんは何とか無事に、手前の中州に流れ着いたようだ。
GPSで確認すると、その川原から林道までは距離も近いようなので、エスケープできるかどうか私一人で確認しに行く。
そうして、何とか林道まで出られることを確認してから戻ってくると、中州に取り残されたY谷さんのレスキューが試みられている最中だった。

中州から川岸にロープを張って、そのロープにY谷さんが掴まって、岸へと移動する。
しかし、その最中にロープが弛み、そこに掴まっていたY谷さんの姿が水中に没してしまう。
結局、Y谷さんは再びロープから離れて下流へと流されていってしまった。


核心部
この中州にY谷さんは流れ着いたが、既にその姿は無い

Y谷さんのことは他の仲間に任せることにして、私たちはここでリタイアすることを決めた。
そこにがんちゃんも加わる。
3人での果てしない藪漕ぎが始まった。

果てしない藪こぎ か弱い女性のがんちゃん、尻を痛めたかみさん、これでは私一人で頑張るしかない。
カナディアンを引っ張りながらルートを切り開く。

途中で急な崖を登らなければならない。
先に独りでここを登った時は空身だったので簡単に登れたが、そこを大型カナディアンを引き上げるのは至難の業だった。
かみさんは殆ど役に立たないので、か弱いがんちゃんのパワーに頼りながら、ようやくその崖を登りきった。

林道まで出て来たときには3人ともボロボロになっていた。
ここまでかかった時間は50分。
これならば下り続けたほうが楽だったかもしれないが、命を守るために途中リタイアすると言うことは、こんな試練にも絶えなければならないのだ。

生きて帰ってきたY谷さんそこで信じられない光景を目にした。
激流の中に消えていったY谷さんが、林道の向こうからトボトボと歩いてきていたのだ。
まさかここで再び生きて巡り会えるとは、思ってもいなかった。

その後レスキューされたY谷さんは、低体温症になりかけていたことから、それ以上下り続けることを諦めて、途中で林道へ上がったとのこと。
4人でお互いの無事を喜び合った。

そうして歩いて車を取りに戻り、皆のところに戻ってくると、川下りを終えた他のメンバーもちょうど戻ってくるところだった。
こうして今シーズン初の北海道での川下りは、途中リタイアと言う私たちにとっては初めての経験となって、何とか終わったのである。

なお、かみさんの痛めたお尻は、打撲程度で済んで、予定通り屋久島の旅へ出発することができた。
しかし、屋久島での縦走の際は、そのお尻が結構痛んで、辛かったようである。

2016年5月4日 雨時々曇り 

トナシベツ川川下りの動画 


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