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積丹岳(2016/4/2)

トラバース地獄


積丹岳に向かう多分これが今シーズン最後の山スキー。
登るのは積丹岳北尾根コース。
標高差1105m、コースタイム3時間30分。
今シーズンに登った山の中では、どちらも一番の標高差にコースタイムである。
それでも、毎週連続で山に出かけ、これが18回目の山行ともなれば、恐るるには足らない数字だ。

積丹岳は2年前の4月に夏道コースを登ったことがある。
その時は4時間かかっていたので、今回も同じくらいはかかりそうだ。
天気は晴れているけれど、薄い雲がかかって、スッキリとした青空ではない。

ガイドブックでは農家の横の除雪終点から登ると書かれていたが、道路の雪は完全に溶けていて、その先の溜め池まで入ることができた。
既に先客の車も数台停まっていて、泥道の中を横切って奥まで車を入れる。

駐車場所に雪は無い張り切って登る準備を始めようとしたら、かみさんが小さな悲鳴を上げた。
何と、自分のスキー靴と間違えて、私の古いスキー靴を持ってきていたのだ。
「同じ袋に入っていたので気が付かなかった」と言い訳をしているが、数日前に自分で片付けたはずだ。
これでは、以前に靴を忘れてきてしまったN島先輩のことを笑ってはいられない。

一時は滑らずにこのまま帰ることも覚悟したが、車にスノーシューを何時も積んであるので、かみさんはそれで登ると言いだした。
下山のことを考えると、山頂まで一緒に登るのは無理だけれど、何もしないで帰るよりはマシである。
こうして、I山さん、S藤さん、marioさんと私達の5人で、予定通り積丹岳を登ることとなったのである。

雪の溶けかけた林道溜め池周辺の雪は完全に無くなっていたけれど、最初の林道部分にはまだ雪が残っていた。
この雪も後一週間も経てば溶けてしまのだろう。
林道の上を雪解け水が流れているようなところでは、川の水面が開くように雪も無くなり、縁に残った雪の上を、かろうじてスキーで歩けるような状態である。

林道が消えかけた辺りから、春先にはタランボ畑に変わりそうな空き地を横切り、積丹岳の山頂へと続く尾根に取り付く。
カラマツの植林地の中は、そこら中が折れ枝だらけである。
カラマツ林を抜けるとミズナラを主体とした二次林に変わる。
大きな木も殆ど無く、展望も利かず、退屈な登りがしばらく続く。

樹木の根元回りは、一足早く雪が溶けて、地面まで見えているところもある。
いわゆる根開けである。
気温が低くて雪が凍っていることを心配していたが、雪はもうザラメ状態になっていて、完全な春スキー気分である。
登る時から上着を1枚脱いでいたけれど、暑くてたまらずに、途中からもう1枚脱いだ。


林の中を登る 林の中を登る
スノーシューで登るかみさん しばらくは雑木林の中の登りが続く

視界が開けてきた標高500mを越えると樹木も疎らになり、ようやく視界も開けてくる。
後ろを振り返ると日本海も見えていた。
今シーズンは海が近くに見える山に登る機会が少なかったので、何となく嬉しくなる。

前方にピークが見えてきて、何となくそれが積丹岳の山頂のように錯覚してしまうが、そこはまだ916mのピークに過ぎない。
700mの台地まで登ってくると、そのピークのずーっと先に、ようやく本物の山頂らしきものが見えてきた。

かみさんはスノーシューで登っていても、ペースはスキーの時と変わらない。
スノーシューでは斜面を斜めに登るのが難しいので、殆ど直登気味に登る事になる。
その分、スキーで登っている時より早いかもしれない。


背後に海が見える
背後に海が見えてきた

積丹岳を登るS藤さんが「後1時間くらいですか?」と聞いてきた。
時計を見るとまだ2時間しか経っていない。
4時間はかかると考えていたので、まだ半分しか登ってきていないのだ。
山頂が見えると、それ程時間もかからずに登れそうな気がしてくるが、ぬか喜びさせないように「まだ2時間はかかると思いますよ」と答えておいた。

気温が下がってきて、この辺りでは雪面も固まったままで溶けていない。
916mピークから山頂へと続く尾根への斜面はブッシュだらけで、特に上の方はハイマツが密生しているようだ。
傾斜も次第にきつくなってきて、固い斜面にスキーのエッジが立たなくなる。


積丹岳を登る
目の前の尾根に登る斜面はブッシュが多い

ハイマツ地獄の中を登るS藤さんのスキーが横滑りして、そのまま斜面を滑落。
ダケカンバの枝に掴まってようやく止まった。

ハイマツ帯へ入ってきた。
前を登っていたI山さんとmarioさんが、斜面の途中で苦労していた。
それを見てルートを変更したが、ハイマツ地獄の中で直ぐに行き場を失ってしまった。
しょうがないので、スキーを脱いでつぼ足で登ることにした。
ハイマツ帯の中をつぼ足で登ると、枝の下に隠れた落とし穴に填ってしまうのだが、今日は雪が凍っているので、何とか埋もれずに尾根の上まで出ることができた。

700m台地付近から風が強くなってきたけれど、この尾根まで上がると風は更に強くなってきた。
今日は朝から南風が強かったけれど、登っている途中は山に風が遮られ、殆ど無風だった。
それが尾根の上では何も遮るものが無くなり、まともに吹き付けてくるのである。

ハイマツ地獄の中を一人で降りるかみさんかみさんはここから一人で降りることになった。
尾根の上を降りて行けば良いだけで、登りのトレースも残っているので、道に迷う心配はないだろう。
標高差にして750m程を登ったことになるので、スノーシューでも結構登れるものだと感心した。
ただ、降りる時も歩いて降りなければならないのが辛いところだ。

そこから先は特に急な斜面もなく、強風に耐えながら黙々と登っていく。
1000m付近のちょっとしたピークは、その東側を巻くように登らなければならない。
ところが、東側は木が1本も生えていない急斜面。
先程のS藤さんの様にスキーが横滑りすれば、そのまま下まで滑落してしまいそうだ。
一歩一歩、しっかりとエッジを立てながら何とかそこをクリア。

山頂まであと少しのところで終了この固い雪面では気持ちの良い滑りは期待できない。
風も強く、無理して山頂に立つような日でもない。
I山さんは北側の斜面を滑るつもりでいたので、そこへ降りられそうな場所を見つけて、今日の登りはここまでとなった。

標高は1135m付近、登り始めて3時間50分だった。
山頂までは後120m。やっぱり4時間で登るのは無理だったようだ。

そこでI山さんに撮ってもらった写真。
写っている3人は図らずも、一昨日に定年退職を迎えたばかりの還暦トリオだった。

若い頃には、還暦なんて聞くと赤いちゃんちゃんこを着てちょこんと座っているおじいちゃんをイメージしていたが、最近の還暦じいちゃんは、まだまだ元気一杯なのである。


積丹岳を登る 還暦トリオ
1000mピークのトラバースも怖かった 元気な還暦トリオ

北斜面を滑り降りるI山さんこの、I山さんが滑ろうとしている積丹岳の北斜面。
ネットで調べても滑った記録がなかなか見つからなかった。
地形図で見ても、そのまま滑り降りれば谷に転落してしまいそうな等高線の並びである。

ビクビクしながらその斜面の上に立ったが、想像していたほどの急斜面ではなかった。
おまけに固い雪面の上に、薄くではあるけれど風で飛ばされてきたような雪が付いていた。
まずは先頭でI山さんが颯爽と滑り降りていき、直ぐにその姿が見えなくなった。

続いて私も滑り降りる。
途中から斜度が変わって急斜面となる。
その下でI山さんがカメラを構えているのが見えたので、格好良く大回りのターンを決めようとする。
しかしそこは完全なアイスバーンの斜面だった。
スピードが出すぎていたので慌ててエッジを立てたが、アイスバーンの斜面ではどうしようもない。
積丹岳北斜面おまけに板も外れて転倒。
そのまま斜面を滑落し始めたので、慌てて身体を入れ替え、残っている方のスキーを下に向け、それで何とか止まることができた。

アイスバーンで、斜面も急で、私の技術では滑っていても全然楽しくない。
そこから少しトラバースしていくと、ちょっとだけ雪の付いた斜面があった。
そこでもう一滑りしたけれど、途中でバランスを崩し、やっぱり上手く滑れない。

滑りは不満だったけれど、周りの風景は素晴らしかった。
谷に向かって滑り降りていくので、回りの雪の壁が過ぎ迫力で迫ってくるのである。
アイスバーンの斜面が太陽の光でキラキラと輝いているのも美しい。
そこを滑るのは絶対に嫌だけれど、眺めるだけなら問題ない。
太陽には美しい暈もかかっていた。


積丹岳北斜面
積丹岳北斜面

気持ち良さそうに滑るS藤さんそんな風景を楽しんだ後は、サッサと登ってきた時の尾根まで戻り、そこをゆっくりと滑りたかった。
しかし、I山さんは「この先にもまだ良い斜面が有ったはず」と良いながらトラバースしていく。
下るにしたがって気温も上がり、雪もザラメに変わってきた。

そして見つけたオープンバーン。
「春スキーはやっぱりこれだね」とS藤さんも大喜びだった。
しかし、私にとっては斜度がきつすぎ、やっぱり上手く滑れない。
満足のいく滑りができればそれでスッキリできるのだけれど、これではストレスが溜まるばかりだ。

早く尾根に戻りたかったが、その先でまた楽しそうな斜面を見つけたI山さんが「ここも下りちゃいましょうか?」
尾根がますます遠ざかっていく。


積丹岳の風景
雄大な山岳景観が広がる

marioさんの滑り I山さんの滑り
マイペースで滑るmarioさん 何処まで滑り降りていくI山さん

藪の中のトラバースさすがにこれ以上降りると谷底まで降りてしまうことになるので、ここからようやく尾根を目指してトラバースすることになった。
I山さんは以前にI上さんと二人でこの北斜面を滑り、トラバースしながら尾根に戻ったことがあり、そのルートもGPSに登録してあるらしい。

でも、そんな話しを聞いても私は全く安心できなかった。
何せ、I山さんとI上さんの、ちょっといかれた二人の行動である。
普通の人間がそれを真似できるとは限らないのだ。

心配していたとおり、そこからトラバース地獄が始まった。
滑りながらのトラバースならばまだ良いが、殆どは歩き、たまに登りも交えたトラバースである。

おまけに樹木は混んでいてブッシュも多い。
途中で深い沢にぶち当たった時は、これでもう終わりかと思ったが、その沢も越えて更にトラバース。

たまらずに途中で休憩を挟んでもらった。
時間的に考えても、かみさんはとっくに下まで降りているはずだが、そんな事は気にしていられないくらいに疲れ切っていた。
それでも景色だけは相変わらず素晴らしい。
谷を挟んだ向かい側の急斜面には生々しい雪崩の跡も見えていた。

疲れ果てて休憩中I山さんに「I上さんとここをトラバースした時は何か勝算があったのですか?」と聞いてみたら、「いや、ただ動物的な感だけでトラバースしただけです」との答えが帰ってきた。
やっぱり、この二人と一緒に行動する時は注意した方が良さそうである。

休憩を終えて、更にトラバースは続く。
溶けた雪がスキー板の上に、重しのように乗ってくる。
標高300m付近でようやく登りのトレースに合流できた。

そこから先も決して楽ではなかった。
樹木が混んでいて、雪も重たく、思うように滑られない。
ここで怪我はしたくないので、ボーゲンで滑り降りたが、既に限界に達していた太ももが悲鳴を上げる。
最後の林道歩きは完全にヨレヨレ。
午後3時、ようやく車まで戻って来ると、そこでは1時間半も先に着いていたかみさんが待っていたのである。

そのかみさんも、色々とあったようだ。
下山中に急斜面で2回も転び、それも、一瞬やってしまったかと思うくらいの危ない転び方だったらしい。
それと、下まで降りてくると雪が溶けたために登りのトレースも消えてしまい、道に迷ったのだとか。
結局、「このまま道路に出れば何とかなる」と考え、登った時とは違うルートで下まで降りてきたとのこと。
なかなか良い経験ができたようだ。

そんな風に終わった積丹岳だったが、登らずにそのまま帰ってしまうことを考えれば、最高に楽しい山行となったのである。

GPSトラック



駐車場所8:50 −かみさん引き返し11:50 - 12:40山頂手前12:55 - トラバース開始13:30 - 駐車場所15:00 



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